安藤裕子『六月十三日、強い雨。』レビュー&セルフライナー



安藤さんの最近のtweetから。


昔、当時所属していた事務所の社長に言われた言葉がある。
CHARAは性(サガ)の人、Leyonaは歌の人、君は言葉の人だ。」
二人は私の先輩にあたるわけで、意味にも合点がいった。
自分については暫く意味が分からなかった。
だけれど、最近なんとなくだけど、分かるんだ。


この「言葉の人」というのが、
安藤さんという人間そのものを評した言葉なのか、
安藤さんの音楽を評したものなのかはよく分からないけれど、
(そもそもその二つに違いがないのかもしれないけれど)
一ファンの自分から見た時の安藤さんの音楽の魅力を端的に言うと、
どうなるかなぁ、と試しに考えてみたところ、
「ほかに類を見ない独特のリズム感」という言葉に行き着きました。

それは、別の言葉でいうと、「独特の間の取り方」であり、
「音への言葉ののせ方」だったりする気がします。

そして、それを端的に表している曲は何かなぁと思ったときに、
浮かんできたのが『隣人に光が差すとき』と、
今回紹介する『六月十三日、強い雨。』だったりします。
(もっとぴったりする曲があったような気がするんだけど、
思い出せません。)

chronicle.(DVD付)

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安藤さん自身によると、『六月十三日、強い雨。』は、
隠れキリシタンの青年に恋をした少女の壮絶な人生を綴った物語である
遠藤周作の『女の一生』をモチーフとした楽曲とのことです。

http://d.hatena.ne.jp/lovebblood/20120619/1340100229


そしてこの曲は、その切ない情況と少女の強さが
非常にシンプルな音とメロディで表現された名曲だと思いますが、
シンプルだけど、どうしようもなく”安藤さんらしさ”を帯びるのは、
やはり独特の間の取り方や音への言葉ののせ方からくる
「リズム感」のためだと思うのです。


T.


A youth becomes enamored of a maiden who returns his love with equal ardor,
but, when she realizes his interest in her makes him forgetful of his duties,
disfigures her person that her attractions may cease.

Night and day, in tones at once firm and tender, brave and plaintive,
they sang to their little nests.

一人の若者がある娘を愛し、娘もまた同じ思いを若者に返したとする。
だが、もし自分を愛することで、若者が義務を怠っていることを知れば、
娘は自分の魅力をなくすために、その手で自らの美貌を傷つけることもあった。

夜も昼も、気丈夫に働き、しかも優しく、そして勇ましくも悲しい調べで、
彼女たちは自分の巣に向かって歌い続けたのである。

(『武士道』新渡戸稲造 岬龍一郎訳)


<セルフライナー(word by 安藤裕子)>

Q ライブに定評がある彼女らしく、臨場感あふれる一曲も??

A 一発録りに挑戦した「六月十三日、強い雨。」がそれ。
曲の最後に「ポキ」って骨がなる音が入ってしまって・・・
そんなところまでライブなんですよ(笑)

「六月十三日、強い雨。」は珍しく本を読んで作りましたね。
遠藤周作さんの「女の一生」っていう作品なんですけど、
それを読んだら、切なくなっちゃって。
主人公の女の人が好きになった男の人が、
実は隠れキリシタンの村人だったっていう話なんですけど、
その「六月十三日」っていうのは、その男の人の村が、
役所に討ちいられる日付なんですね。
それを読んで、
「もし自分が今死んでしまうとしたら、それでも後悔しないくらい、
今まで好きな人に尽くせた時間ってあったかな、
そこまで自分を尽くせるほどに好きな人がいたかな。
もし仮に、その死に様が、端から見てかわいそうなものであっても、
自分自身が、その人のために死んでもいいやと思って死んだのなら、
それは幸せかもしれないな・・・」とか、
そういうことを考えていたら、
だんだんと小説の中の世界と自分がシンクロしてきて、
「その人に会えたことだけでもうれしいいんだ」
っていう感情が高まったときに、
あの曲の「たとえ 今が終わっても 後悔はしないように いつもあなたに・・・」
って歌詞が出てきたんです。

例えば、「六月十三日、強い雨」は
すごくシンプルで素直だと思うんですけど、
素直でシンプルな方が輝く曲はたくさんありますよね。
ただ、作り手と聴き手の中で、
何がカッコイイ/悪いかの基準はそれぞれあるし、
私の曲のねらいどころに共感してくれる人は
大の音楽好きが多かったりはしますよね。
ただ、時代に流されて、
後で恥ずかしくなるものはやりたくないですね。

遠藤周作さんの「女の一生」を読んで、
強い感銘を受けてできた曲。
自分は死んでもいいと思えるほどの相手に出会えれば幸せです。

私にとって、この一曲目は一つの時代のエンディングを意味していて。
終わりから始まり、始まりで終わるというイメージがあって。
だから、今まではしっとりした曲で終わることが多かったんですけど、
今回はエピローグのような曲で始まり、
オープニングを意味するプロローグのような曲で終わる構成になっています。