安藤裕子『ないものねだりのI Want You』(from松本隆『風街であひませう』)
ものすごく更新が空いてしまった上に発売から結構経ってしまいましたが、(-_-;)
今回は、偉大なる作詞家、松本隆さんのトリビュートアルバムについてです。
松本さんといえば、安藤さんが昔からことあるごとに影響を口にする数少ない(笑)アーティスト、
はっぴいえんどのメンバーで、偉大なる職業作詞家です。
その松本さんの作詞活動45周年を記念して制作されたトリビュートアルバム『風街であひませう』に
C-C-Bの名曲『ないものねだりのI Want You』で安藤さんが参加されています。
松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート 「風街であひませう」(通常盤)
- アーティスト: VARIOUS ARTISTS,安藤裕子,小山田壮平&イエロートレイン,草野マサムネ,クラムボン,斉藤和義,手嶌葵,中納良恵(EGO-WRAPPIN’),ハナレグミ,やくしまるえつこ,YUKI,細野晴臣
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2015/06/24
- メディア: CD
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このアルバム、参加者が非常に豪華かつユニークです。
特に女性アーティストは、安藤さんのほかにも、
手嶌葵、原田郁子(クラムボン)、 やくしまるえつこ
YUKI、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)と、超個性派ボーカリストぞろいです。
そんな中でも(そんな中だからこそかな)、
安藤さんの歌声はひときわ際立っているように感じます。
今年は歌い手としての活動に力を入れている感もありますが、
昔のアルバムと聞き比べると、安藤さんの歌い手としての幅の広がりがとてもよく分かります。
いわゆる「うまい」とか「きれい」な歌声ではないのかもしれませんが、
安藤さんの歌声は一度聴いたら忘れられません。
何より、安藤さんにしか出せない圧倒的なオリジナリティがあります。
最初に聴いたときはスキマスイッチの曲にしか聴こえなかった「360°サラウンド」も、
いまや安藤さんの曲にしか聴こえません(笑)
- アーティスト: 安藤裕子
- 出版社/メーカー: cutting edge/Revolution Recordings
- 発売日: 2015/07/29
- メディア: CD
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さて、このアルバム、豪華版には、著名人による朗読ディスクが付いています。
全部を聴いたわけではないのですが、聴いた中でとても印象に残ったのは、
宮崎あおいさん(夏色のおもいで)と加瀬亮さん(夏なんです)。
全く素養がないので朗読の良しあしはよく分かりませんが、
お二人の朗読は、とてもとても心に来ました。
この3曲を聴けただけでも、買ってよかったなと思えるアルバムでした。
T.
スペースシャワーTVで放送された記念番組での安藤さんのインタビューから。
男なのに、すごいやっぱり少女性が際立つというか、そこはすごく好きですね。
私の場合は割と、男性性が強くなっていくタイプなんですよ、言葉で。
そういう意味では羨ましいなって思いますね。
Q この曲はいつ知った曲?
A ちっちゃい頃、いつなんですかね?
私(「ないものねだりのI Want You」の)発表年度分からないんですけど、
お姉ちゃんがいたのもあって、
そういうお姉ちゃんたちが見ているテレビみたいのをすごい観てたから。
で、ちっちゃい頃C-C-Bが大好きで、いつも歌ってたんですよ。
大人になってクレジット見たら、松本隆だ、みたいなことだったんですけど。
だから、そこでは意識はつながってないんですよ、その当時は。
でも、振り返ると松本さんがいる。
振り返ればやつがいるみたいな感じですね。
Q 印象に残っている歌詞は?
A なんかラップなんですよね(笑)。
すごく当時耳慣れないようなライム的なことをやってらしたんだと思うんですけど、
どうだろう、なんかちっちゃい頃歌ってて覚えたのは、
私、「真紅のインクで好きだと書いてくれない」という歌詞があるんですけど、
ずっと、ちっちゃい頃、「ピンクのインクで」ってことだと思ってたんですよね。
だから大人になってレコーディングするときに、
あ、真紅なんだ、って思って、ちょっとびっくりしましたけど。
だから、その一行はちょっと耳に引っかかってます。
Q カバーしてみて気付いたことは?
A この曲の限らずですけど、やっぱりデビュー前とか、
はっぴいえんどの曲とかカバーしてたりしてたんですけど、
やっぱりとにかくメロディーと言葉の合致感がいいっていうのが一番ですね。
なんか、文学と歌詞っていうのはやっぱり違うと思うんですよね。
口語と文章が全然違うのと同じで。
やっぱり音楽に乗って初めてすごく意味を成すというか、
そういう言葉達だなって印象はありますね。
歌詞だけ読んでも綺麗かもしれないけれども、
たとえば小説を書くような文章と比べたら、きっと違うんですよね、ものが。
やっぱりメロディに乗った時に、一番聴いてほしいパンチワードとか、
そういう音の到達点にちゃんとからんでいるというか。
そういうところもやっぱりミュージシャンぽいっていう感じがします。
(words by 安藤裕子)
もう一人、こちらも伝説のミュージシャン。高田渡の著書から。
そのころから、はっぴいえんどは独特なスタンスをもっているバンドだった。
彼らの初めてのアルバムがURCから出たときに、
「このバンドはいい」と僕は断言した。
のちに大滝詠一がこう言ったものだった。
「いいと言ってくれたのは高田さんがいちばん最初だった」
メンバーのなかで現代詩が好きだったのが松本隆だ。
読みすぎと思えるほどにたくさん読んでいた。
どちらかというと彼は詩を分析したがるほうで、
僕とよく詩の話をしたものだ。
他のメンバーも、みんな個性的でおもしろかった。
僕とかれらでは、音楽的にはまったく違うのだが、
どこか通じるところがあるように感じていた
(wordsby 高田渡)
- 作者: 高田渡
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/04/09
- メディア: 文庫
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最後に、松本さんご本人のお言葉から。
歌詞作りは、曖昧で複雑な人間の感情の中から余計なものを削いで
「上澄み」をすくい取る仕事だと思っています。
はっぴいえんどでは、“ことば”や“うた”を通して、
生や死など人間の本質に関わる問題について答えを出そうと作詞に取り組んでいました。
音楽業界の中には「量のためには質を落とせばよい」というような暗黙の了解がありましたが、
僕はそうした風潮に一貫して闘いを挑んできました。
安易な粗製濫造コピーで下品な作品を残したくなかったから。
松田聖子をはじめ斉藤由貴、薬師丸ひろ子など多くの歌手の作品を手がけましたが、
誰かを真似したような「亜流」を作らないことが、自分のプライドでした。
僕の詞を歌うことでそれぞれの歌手が全く違った個性の生命体として輝けるとしたら、
とても嬉しいことです。
(words by 松本隆)