安藤裕子出演映画 『ぶどうのなみだ』


三島有紀子監督、大泉洋安藤裕子染谷将太主演映画
『ぶどうのなみだ』を観てきました。


安藤さん目当ての部分があったことは否めませんが(笑)、
三島監督の前作『しあわせのパン』も素敵な映画だったので、
とても楽しみにしていました。

なんとなく予告編からは、
『しあわせのパン』と似たような
ほんわかした雰囲気を想像していましたが、
思ったよりも重厚な雰囲気が映画全体を支配していました。

それは、扱っているテーマはもちろん、
大泉さん演じるアオのキャラクターによるところもあると思いますが、
何より、全編に流れる背景音楽の影響が非常に大きいように感じました。
正直、少し音楽の比重が大き過ぎるなぁ、と感じる場面も。

安藤さんの演技は、セリフ付きだと『IWGP』以来、
台詞なしだといくつかのPVでドラマ仕立てのものを観たことがあるくらいですが、
想像以上に役にはまっているように感じました。
プロの役者さんたちの“演技”とは明らかに異質な感じは受けますが、
存在自体が映画にしっくりくるという感じです。
慣れてくれば、大女優になったりするかも??

でも、あくまで音楽家としての安藤さんのファンとしては、
女優業は本業に影響が出ない程度にしておいて欲しいです(笑)

さて、音楽と違ってあまり詳細に書くとネタバレになってしまうので、
ざっくりとした感想をいくつか。

個人的に感じたこの映画のテーマは、
親子関係

映像の美しさ
の3つでした。

大泉さん演じるアオと、安藤さん演じるエリカは、
それぞれ父親と母親との関係に悩んでいます。

そして、その悩みは、雨、ぶどうのなみだ、
そして二人が実際に流す涙に象徴されているるように感じました。

ほとんど演技経験がない安藤さんが、
この映画にぴったりとはまっているように感じるのは、現実の安藤さん自体にも、
この親子関係と涙というテーマ(モチーフ)が深くかかわっているせいかもしれません。
私は、「はじまりの唄」のPVで安藤さんが流す涙がとても強く印象に残っています。
三島監督が安藤さんを配役したのも、そのせいだというのは、穿った見方でしょうか。

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しかし、女は子供が新たに一人生まれる毎に、
少なくとも他のことを何も考えずにいられるという意味では、
初めのうちの純粋な関係に幾らか似た気持ちを取り戻すことができて、
子供が生まれてからの何日かの安静を旨とする生活では、
子供を抱いている母親の額には青空が映り、
二人のものがただお互いのためだけに生きているという、
魔法の輪に閉ざされているような感じが甦る。
(アン・モロウ・リンドバーグ著 吉田健一訳 「海からの贈り物」)

海からの贈物 (新潮文庫)

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映像の美しさについては、特に説明はいらず、観ていただければ一目瞭然です。
映画というよりは、写真に近いような映像も多く、
実際にイメージブックも発売されています。

「ぶどうのなみだ」の風景 (SPACE SHOWER BOOKs)

「ぶどうのなみだ」の風景 (SPACE SHOWER BOOKs)

アオのワイン蔵の窓が蜂の巣模様になっていたことと、
アオが白衣をきているところなどは、
「みつばちのささやき」を想起させられたりもしました。

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映画において私が”光”に持たせる重要性は本質的なものです。
”光”を使うことによって現実を、シーンの雰囲気を、
さらには役者の演技までをも変えてしまうことができる。
しかし、”光”のテーマに関連して、
副次的だが付け加えなければならないことがひとつ。
若いころ、私は映像(イメージ)の美しさを信じていましたが、
今日では特にショットの正当性、適合性を信頼するようになりました。
なぜなら映画は映像(イメージ)の問題ではなく、
ショットのそれであるからです。
一つのショットの美しさ、その正当性、それを選択する際の適切な判断とは、
映像(イメージ)の美しさとはかけ離れたものなのです。
ビクトル・エリセ

ビクトル・エリセ (e・mブックス)

ビクトル・エリセ (e・mブックス)

しかし、何よりも、映画館の大スクリーンに映し出された安藤さんを見るのは、
ファンとしては何とも言えず嬉しい体験です。

できればもう一度じっくり見たいところですが、
最近は上映終了が結構速いので難しいかもしれません。

あとは、ブルーレイ化されるのを待つばかりです。

K.