安藤裕子ファンにお勧めの音楽(番外編)ミツバチのささやき


昔から割と内向的な性格だったので、
何故か実家に大量にあった江戸川乱歩に始まり、
音楽、映画、ゲームと家内活動に没頭してきた人生だが、
それぞれの分野において、ターニングポイント的な作品との出会いがあって、
安藤さんの作品ももちろんその一つだけど、
影響度とか衝撃度でベスト3には間違いなく入る作品が
ビクトル・エリセ作品だ。


ミツバチのささやき [DVD]

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ビクトル・エリセはスペインの映画監督で、
約10年に一本という超スローペースで作品を発表している
超寡作の監督であるが、発表する作品は全て素晴らしい傑作である。

ただ、日本における知名度は極端に低く、
自分もビクトル・エリセを知っている人に
これまで数える程しか出会ったことがない。

今回ビクトル・エリセを取り上げようと思ったのも、
どうやら彼の作品が日本の流通から消えかかっていることがわかったからだ。

需要のないものは消えて行くというのは世の常だとは思うけれど、
ビクトル・エリセ作品は需要がないのではなく、
単に知られていないだけだと信じたい。

かくいう自分もビクトル・エリセを知ったのはかなり偶然で、
大学時代にたまたま取っていた映画関係の授業で
今回紹介する『ミツバチのささやき』が紹介されたのがきっかけだった。


それまで、映画=娯楽というイメージが強かったが、
この映画で初めて、作品を理解する、という楽しみ方を知った。

ミツバチのささやきは、
もちろんぼーっと見ていても十分素晴らしい映画だが、
その時代背景やメタファー、監督の狙いなどを読み取ろうと
観る側が多少努力すると、より楽しめる。

スペインという国は、ほかのヨーロッパ諸国、
例えばイギリスやドイツやフランスに比べると
一般的な情報量が少なく、
日本においてはあまり馴染みがない国のように思う。
私がスペインについて知っていることといえば、
サッカーやテニスが強いとか、
パエリアやタパスが美味しいとか、
情熱の国だとか、
なんとなく陽気なイメージがあったが、
この映画を見ると、
深い闇を抱えた国だということが分かります。

こういう楽しみ方は、もちろん強制されるべきではないけれど、
自発的にやる分には、映画に限らず、小説や写真や、
そして音楽においても、素晴らしい体験につながることがある。

うろ覚えだし、それが正しいかは分からないが、
確か大学の先生は、この映画をモンスターの映画だと言っていた。

確かにそういう目で見ると、
冒頭の劇中映画で登場するフランケンシュタインに始まり、
ミツバチに異常な執着を見せる父親、
夫ではない“誰か”に手紙を書き続ける母親、
“死”というものに無邪気で純粋な興味を持ち始めた姉、
脱走兵、
脱走兵を容赦無く射殺する人々、
モンスター的な人々が溢れているようにも見える。

そんな中で、映画史上もっとも可憐な子役、
アナ・トレント演じるアナがどうなって行くのか。

劇中音楽も素晴らしい。
セリフ量が極端に少なく、凝縮したらJPOPの歌詞1曲分くらいかもしれない。
そういう意味では、映画というより、音楽に近いかもしれない。

そしてこのある意味シンプルにすら見える作品の裏にある
エリセ監督の演出も素晴らしい。
アナと姉のイザベルがベッドで会話をする重要なシーンがあるが、
実はこの時にアナとイザベルが話している相手はエリセ監督である。


是非多くの方に見ていただきたいです。
そして是非再販して欲しいものです。