安藤裕子 『Merry Andrew』(アルバム) レビュー&セルフライナー

今回は、「Merry Andrew」です。
せっかくだから、なんとか公式HPの企画に連動できるようにしたいものです。


Merry Andrew

Merry Andrew


2ndフルアルバムにして、安藤さんの認知度を一気に高めたアルバム。
今となっては考えられませんが、Hey!Hey!hey!ミュージックステーションなど、
テレビ出演も結構されていました。

安藤さんのアルバムの中では一番聴きやすいというか、
収録曲も割と一般受けする曲が多いような気がします。
ブレイクのきっかけにもなった
のうぜんかつら(リプライズ)も収録されています。
個人的にはのうぜんかつらは無印のほうが好きですが。


〈セルフライナー(word by 安藤裕子)〉

2005年は、本当にただただ作ってましたねぇ。
毎曲毎曲、その曲がどうよくなるかってことだけ考えて、
前作(「Middle Tempo Magic」)のときは
どれぐらい音楽的ジャンルの幅があるかなとか、
コアなことやったから、次はもっと分かりやすいことやろうとか、
明るい曲があったら、もっと重くて深い曲を作ろうとか。
そういうバランスの取り方をしてたんですけど、
今回ははかりごとをしてないから、前より生々しい感じがしますね。
自分の素に近いというか。
派手にパフォーマンスしてない分、
感情の起伏みたいなものは薄いのかもしれないんだけど、
より人間味が濃いというか。等身大感はあると思いますね。
ただただいっぱいいっぱいな毎日の中で、
レコーディングとか音楽的な作業だけが息継ぎになってて。
音楽を作っているときだけ、「わー、楽しいね」って思えて。
あとは「あたし何をやってるんだろう」と思ってたりして。
作り物に依存度が高かったし、助けられた部分もあったし。
あたし、気を抜いてると曲作ってることが非常に多いんですけど、
その日常の延長にできた作品っていう感じですかね。

曲順決めるの大変でしたね。
自分がゆるいっていうか動きの遅い人間だから、
ゆるい曲も多くて。
よっぽどアッパーな気分じゃないと、
アッパーな曲ってできないんですよ。
気がつくとゆったりした曲が多くて、
これはやばいなってレコーディングの最後ギリギリに、
”のうぜんかつら”のポップバージョンを作ったりして。
一曲一曲は最っ高にいい曲だと思ってやってるんだけど、
曲順によっては曲が余っちゃう。
そんな感じでしたね。
達成感のようなものはないんですね。
ちょうど1年かけて作ったから、
まさに2005年日記っていう感じが強いんですよ。
演奏も含めて、
大きな感情がそれぞれの曲の中でまとまっている感じはしていて。
なので、それぞれの曲が強い感情を持っている作品にはなりましたね。
あたしの歌やメロディや歌詞だけじゃなくて、曲自体がね。
それはエンジニアから演奏者から全部含めての話で、
みんなが一つの舞台を演じ切れたからというか。
一曲一曲により深みが出せたっていうか。
そういう意味では音楽的にすごくピュアに成長できたのかもしれないですし、
実際に音楽やる人間としての純粋度は、
高めることができたんじゃないかなと思いますね。

前作に比べると、あまりバランスを計るようなことを今回はしてなくて。
ほんとに生活を綴るというか、日常的なあまり突出のない感情の揺れですよね。
演出しようと思えばすることも出来るし、
強い感情の方が受け入れられやすい部分もあるから、
抑揚を付けることも美しいんだけど、
今回の作品は、毎日ちゃんと安定した生活を送っているんだけど、
どこか自分に虚無感があったり、言いしれない不安感があったり・・・
これだけ豊かな国で生きていてもそれは誰しもあると思うんですけど、
そういう何かぬるい悲しみだとか、
そういうものが主だったなって。
そういう意味で前作よりもすごく人間らしくなったのと、
リアリティーがあるかなと思っていて。
素の私に近いと思えるのが今作です。
前のアルバムまでに私は自己紹介を終えたかったんですよね。
私、自分のことを「こういう人間です」っていう判断があまりないんです。
どうとでも変わると思ってて。
だから1stアルバムを出すまでの間、こういう顔もあるし、
こういう顔も見せておきたいっていうのがあって、
デビュー・ミニアルバムで「サリー」を出したから、
じゃあちょっと崩した「and do,record」を出してみようって。
で、1stアルバムの表題曲が結構真面目だから、
その前にシングルでふざけておこうとか。
もちろん1曲1曲真面目に、
自分の中から作ってるもの以外の何者でもないんだけど、
その色彩的振り分けみたいなもの、・・・
こういう曲があるなら、こういう曲がここにはあった方がいいだろうとか、
そういうことを結構考えていたのね。
で、皆さんに「私、歌手っていう職業をしてるんです」
ってことをいう名刺にしたいって思いもあったのが1枚目で、
それを終えてやっと肩の荷が下りて、
素直に音楽ってものを生活にしていく作業に入ったのがちょうど今年。
そういう意味では今作はサービス精神よりは、
より自分の生身な人生を綴っていく感じの1枚になってるのかなって。
私は常々自分のことをピエロのような人間だなと思って生きてきたんです。
なんか人と真正面で向き合って、
対面して感情をぶつけ合って生きていくっていうようなことが得意なほうではなく、
基本ごまかして、お調子者のような感じでヘラヘラって生きてる時間が非常に長くて。
例えばある子がこの水(とペットボトルを指す)が大好きで、
「私、この水が手に入れたいの」って言ったら、
自分もそれが気に入ってても、「お、良かったじゃん」って。
なんか、強い執着を向けられるのも向けるのも得意じゃなくて。
それは異性別なく、人に対して・・・。
やっぱり楽だったから、そうやって人との距離を置いてたんですけど、
気がついたらどこか寂しさもあって。
だから明るいハッピーなピエロっていうよりは、
笑いものなんだけど、涙マークがついているみたいな
・・・そういうピエロ。
私、自分が作ったものに、”Uchary Andrew”って記名するんですけど、
”Andrew”って単語を調べたらたまたまそういう意味のものが出てきて、
これは私のための単語じゃないのかと思って。
そういう意味では、思想な部分も見えたりとか、
チャラチャラふざけてるところもあったりとか・・・そんなアルバムですかね。

ファーストまでは人が何を求めているかってのを考えながら作ってたんですけど、
アルバムを出し終えてからは、もう考えるのはやめて。
そうしたら自分なりのオリジナリティを出せたと思う。
タイトルの、"Merry Andrew"って道化師の意味なんですけど、
自分が常々ピエロのような人間だと思っていて、
なんかね、人と対立したり、
言葉のキャッチボールをするのが苦手なんですよ。
すぐおどけて誤魔化しちゃうタイプなんですよ。
Andrewって私の愛称でもあるんで、
このアルバムはある意味セルフタイトルの近いですね。